食育教室講座
今日の多様化する日本の食生活において「食と健康」に関する正しい知識を身につけ、食育を通して子どもからお年寄りまであらゆる世代の人々に、その意義を啓蒙普及できる人材です。そのために一定の知識を習得し、現代社会における食の重要性と課題を常に認識し、かつ実践を通して健康な社会づくりを担う使命感あふれる人たちです。
現在までに○○万名以上の方が食育指導士の資格を取られました。の知識を習得し、現代社会における食の重要性と課題を常に認識し、かつ実践を通して健康な社会づくりを担う使命感あふれる人たちです。現在までに1万名以上の方が食育指導士の資格を取られました。
「メタボリックシンドローム」と「トランス脂肪酸に注意」
メタボリックシンドローム
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メタボリックシンドロームとは、内臓に脂肪が蓄積して糖質や脂質の代謝異常を起こし、これが原因となって高脂血症、高血圧症、高血糖症などを重複して発症させた状態です。こうした状態は脳卒中、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患、糖尿病などを引き起こす危険因子として注意が必要です。わが国では2005年5月、日本肥満学会、日本内科学会が中心になり、復囲(へそ周り)、血中脂質、血圧、血糖値などの診断基準が作られました。
また最近厚生労働省の研究班により、6~15歳を対象とした診断基準も作られています。
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大人の場合も子どもの場合も、①に加え②が2項目以上該当する場合をメタボリックシンドロームとしています。
(1)大人の場合
①ウエスト周囲(へその高さで測る)
・男性:85cm以上/女性:90cm以上
② 以下の2項目以上が該当する場合
・高脂血症
中性脂肪150mg/dL以上、又はHDLコレステロール40mg/dL未満。又はこのいずれにも該当するもの。
・高血圧
収縮期血圧(最大値)130mmHg以上、又は拡張期血圧(最小値)85mmHg以上。又はこのいずれにも該当するもの。
・高血糖
空腹時血糖値 110mg/dL以上
(2)子どもの場合
①ウエスト周囲(へその高さで測る)80cm以上
② 以下の2項目以上が該当する場合
中性脂肪120mg/dL以上、又はHDLコレステロール40mg/dL未満。又はこのいずれにも該当するもの。
・高血圧
収縮期血圧(最大値)125mmHg以上、又は拡張期血圧(最小値)70mmHg以上。又はこのいずれにも該当するもの。
・高血糖
空腹時血糖値 100mg/dL以上
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最近肥満とともに増え続けるメタボリックシンドロームの予防に対し、厚生労働省も早期発見・改善の為に健康診断や、保健指導の見直しを始めました。またキャッチフレーズも「一に運動、二に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」としてPRしています。
個人が予防する方法としては「肥満しない」こと、及び「禁煙」です。
①食事はカロリーをひかえ、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの摂取を心がけましょう。
②たばこを吸う人は吸わない人に比べ、メタボリックシンドローム発症が2倍になるとのデータがあります。
喫煙が動脈硬化を促進し、心血管疾患発症の危険性を高めることが原因です。
皮膚に張りニコチンを体内に吸収するニコチン製剤(パッチ)が、保険適用になりましたので効果的な禁煙治療が受けやすくなっています。
トランス脂肪酸に注意
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トランス脂肪酸は
①マーガリンやショートニングを製造する際、液状の植物性油脂(不飽和脂肪酸)に水素を添加して固形化する。
②油を抽出する時溶媒にヘキサンなどを使う。
③高温で同じ油を何度もくりかえし調理に利用するなどの時出来るものです。
その他微量ですが、反すう動物(牛、山羊、羊)などの腸内細菌によって作られこれらの動物の肉、乳脂肪に含まれます。
天然の不飽和脂肪酸の立体構造はほぼ全部がシス型ですが、トランス型は構造が異なります。
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①トランス脂肪酸は、悪玉コレステロール(LDLやVLDLコレステロール)を増やし、善玉コレステロール(HDL)を減らして炎症反応を起こし、虚血性心疾患のリスクを高めます。
②気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎を起こしやすい。
以上の外に、高齢者が大量に摂取すると、認知症を起こしやすいとの報告もあります。
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WHOやFAO(国連食糧農業機関)の合同会議、またEFSA(欧州食品安全機関)などいずれも、トランス脂肪酸の摂取と疾病との関連性を認め、摂取量を少なくするよう報告しています。
こうした報告を受け欧米を中心にここ数年、トランス脂肪酸含有率表示を義務化する国が増え、消費者や外食産業における意識も変わりました。ニューヨークでは、外食産業におけるトランス脂肪酸含有の油使用を全面禁止、コーヒーチェーンのスターバックスも2007年中には、全米のすべての店でメニューを変えてトランス脂肪酸を排除する、ケンタッキーフライドチキンもこうした内容での変更を進めています。
また心臓病協会推薦のTransfat free (「トランス脂肪酸」なし)というマーガリンもスーパーの店頭で目立つようになりました。
わが国では「第6次改訂 日本人の栄養所要量」において、次のように述べられています。
「トランス脂肪酸」は、脂肪の水素添加時に生成し、また反芻胃の微生物により合成され吸収されることから、反芻動物の肉や脂肪中にも存在する。トランス脂肪酸の摂取量が増えると、血漿コレステロール濃度の上昇、HDLコレステロール濃度の低下など、動脈硬化症の危険性が増加すると報告されている。」一般に日本人の脂肪摂取量は欧米人の3分の1以下などと言われますが、最近の摂取量は結構多いと思われます。
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最近は食事の欧風化が進んでいます。トランス脂肪酸の少ない食品も大量に食べ続けると、トランス脂肪酸の体内蓄積が多くなり疾病のリスクを高めます。脂肪摂取過多にならぬよう気を付けましょう。
① 家庭でも外食でも、出来るだけ和食を心がける。
② 食品を購入する場合、脂肪の含有量表示をチェックする。
③ マヨネーズ、マーガリン、ショートニングなどの使用量をへらす。
④ 天ぷらは少量の油で調理し、残った油は冷暗所に貯蔵し、出来るだけ早く使いきる。
早寝早起き朝ごはん
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近年、若年層の生活習慣病予備軍やキレやすい若者が社会問題になっております。また全人口の一割をはるかに超える1,620万人が糖尿病もしくはその予備軍といわれ、今話題のメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)でも、男性の40歳以上で約2人に1人、女性の約5人に1人がその可能性が疑われる、と考えられています。国民医療費も年々大きく膨らみ、国民の負担も限界になりつつあり、日本も大きな社会不安を抱え転換点を迎えております。
このような状況下、文部科学省では、平成18年度から「子どもの生活リズム向上プロジェクト」を立ち上げ、また平成18年4月以降「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が、PTAをはじめとして幅広い団体・行政等の参加を得て国民運動を展開しています。
なぜ「早寝早起き朝ご飯」が必要か、一緒に考察しましょう。
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太古の昔から、生物は地球の日の出と日没による昼夜のリズムに影響を受けてきました。どんな動物でも必ず睡眠をとります。
太陽が東から昇ると目覚め、太陽が西に沈み暗くなると眠りにつくのは、何百万年にもわたり進化してきた我々人間も例外ではありませんでした。
「古代エジプトの都ルクソールの人々は、太陽が昇るナイル川の東岸は生者の住むところ、太陽が沈む西岸は死者の逝くところ」と信じました。東岸には人々が生活し、カルナックやルクソールの巨大神殿を建造しましたが、西岸の砂漠はあの世がある場所で、死者を葬る多くの墓地(王家の谷もここにあります)が造られました。
日本でも天照大神が洞穴の中に隠れてしまい、暗黒の夜が続いた「天の岩戸の神話」に見られるように、太陽のありがたさは人々の間に信仰として受け継がれてきました。朝日に向かって拍手(かしわで)を打ったり、神社で祭られているご神体の鏡は太陽を象徴しているなど、現在でも日常生活のあちらこちらに太陽信仰は残っております。太陽の出ている明るい時間は起きて働き、太陽が沈んだあとの暗い時間は休息する、という生活リズムの大切さが昔からこのような形で伝えられてきたのです。
早寝早起きは、このような自然のリズムに沿った人間として大事な、昔から守るべき生活習慣でした。
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電気の発明、それに続く交通手段や産業の発展により、20世紀に入り夜遅くまで起きて働くという行動パターンが、先進国で浸透するようになりました。更に近年のテレビやコンピューターの普及により、世界的に人間の社会生活における、昼と夜の差が少なくなってきました。
日本においても、大人のみならず子どもまでも夜遅くまで起きている生活パターンが、急速に広がっています。夜遅くまで起きていれば、朝早く起きるのは当然苦痛になり、出来るだけ時間ギリギリまで寝ていたいという悪循環に陥り、自然のリズムから大きく外れることになってきました。
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人間が猿から進化した大きな要因は、食べ物の違いと言われています。カリフォルニア大学の人類学教授のK.ミルトン博士の研究に、共通の祖先から分かれた同じくらいの大きさのマウントホエザルとアカクモザルの比較があります。ホエザルは木の葉を主として食べ、果実のある季節のみ果実も食べます。一方クモザルは主に果実を食べ、果実がなくなる季節も森の中で木の実を探して食べるのです。果実や木の実は、繊維が多くエネルギーになりづらい木の葉と違い、糖やデンプンや脂肪が含まれる為、エネルギーが得られやすく、又その他の栄養素も多いので、長い間木の葉を主に食べてきたホエザルに比べ、クモザルは2倍の重さの脳を持つようになったのです。
人間も、クモザルと同じようなプロセスで進化していったと考えられています。
つまり人間が人間に進化していったのは、約500万年もの長い間、種々雑多な食べ物を食べつづけ、いろいろな栄養素を摂り入れた結果、脳や体が発達し「万物の霊長」になっていったということなのです。
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自然の木の実や果実をとって食べていた頃は、食事は食料を獲得したときに限られていたので、何日も食べられない日が続くこともありました。農耕が始まってからは、食料の備蓄も出来るようになり、年を経るに従い食事の回数もだんだん増え、今は一日に朝・昼・晩の3回が定着してきました。
なぜ、一日に2回の食事ではなく3回になったのでしょうか。
太陽による自然のリズムの影響を何百万年にわたり受けてきた人類は、脳の発達に伴い、食料の確保にも、他の動物との違いを発揮し、著しい進歩を遂げました。農耕・牧畜・養殖は、狩猟・採集を中心とした食料調達手段を大改革したのです。
近年の研究でわかったことですが、人間の脳は体重のわずか2%しかないのに、使用するエネルギーは全体の20%を使う大食漢なのです。また脳は夜寝ている間も起きているときと同じくらいのエネルギーを使うのです。(夜間の消費量は約240キロカロリーで、ブドウ糖換算で約60グラム、1日ではその倍の約120グラム)
体はタンパク質や脂肪もエネルギーにすることが出来ますが、脳はブドウ糖(グルコース)だけをエネルギーにします。しかも夜の間に相当の量を消費しますので、前日の夕食で補給してもすぐになくなってしまい、肝臓や筋肉に蓄えているグリコーゲンをエネルギーに変えるだけではとても足りません。朝食をとってエネルギーを補給しないと、脳がしっかり機能しないのです。
このようなことから朝食が定着し、その後の産業革命以降、特に労働強化のためのエネルギー補給源として、労働と労働の間の昼食もきちんと摂るようになってきました。仕事が終わってからの夕食は、時間的な余裕があり家族皆がそろって、その日一日の出来事を話し合いながら食事するという、楽しく美味しく食べる文化的社会的側面が芽生えてきました。今日では、世界中3回の食事が基本となっています。
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平成18年版食育白書の図表からは、朝食を食べない人の割合は年々増加の傾向にあることが分かります。
平成16年時点での朝食欠食率は、全体で10.5%、男性12.6%、女性8.7%ですが、20歳代の一人世帯の男性は65.5%と極めて高いことが、特徴的です。「食欲がない、時間がない」のが朝食欠食のおもな理由です。
また平成17年度の調査では、 自分一人で朝食を取る小学生は20.1%、中学生は41.6%と孤食が多くなっており、その上食事の内容も人によって違う個食も多く、特に成長期の子どもが、好き嫌いによりきちんとした内容の朝食を取っていない偏食も問題で、中には菓子パンやスナック類のみの朝食もあり、栄養バランスが大きく崩れています。
食料があふれている現在の日本で、食育の無知からくる「現代型栄養失調」が特に子どもたちを蝕んでいます。
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朝食を摂らないと、血糖が低下し始め、体温も下がり、体の抵抗力は弱まって脳の働きが悪くなってきます。エネルギーを補給するために、肝臓からグリコーゲンを取り出し血糖(グルコース)を、また筋肉のタンパク質を分解し、その中のアミノ酸を糖に変え脳に供給します。そのときに血糖を高めて、脳の活動を維持する色々なホルモンが分泌されます。イライラや攻撃性・興奮・ストレスに関与するアドレナリン、ノルアドレナリンや副腎皮質ホルモンの分泌が、精神的に微妙な影響を与えるのです。
最新の調査で、心身の活力及び活性化と密接に関係するA10神経細胞核が、脳幹の中脳にあることがわかりました。この核の神経繊維が、知(前頭葉・側頭葉)、情(大脳基底核・辺縁系)、意(視床下部)の働きを神経伝達物質のドーパミンを介しコントロールしているのですが、このA10細胞核に作用して、知・情・意・を活性化させるのがベーターエンドルフィンで、朝食を摂ることによって分泌が促進され、また食欲増進ホルモンのオレキシンも分泌されることが分かっています。
茨城県警と筑波大学が共同で調査した報告書によれば、傷害や覚醒剤使用で補導された非行少年530人の内、55%が朝食を欠食していました。孤食や偏食の比率も、一般少年と比べ著しく高く、朝食を摂らない非行少年は、脳の糖代謝が前頭葉の部分で低下し、偏食による低血糖やビタミン、ミネラルの欠乏と相まって抑制が効かなくなり、その結果非行に暴走するということを示しています。
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国立教育政策研究所の「平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査」によると、毎日朝食をとる子どもほど、ペーパーテストの得点が高い傾向がはっきり証明されました。
また朝食欠食は、朝食以外の1回の食事量が多くなり過食につながることから、子どもから大人まで肥満や生活習慣病の発症率を高めることも確認されています。
しっかり朝食を摂るためには、欠食理由の「時間がないから、食欲がないから」をまず解消しなくてはなりません。自然のリズムに合わせて、前日の夜は早くベッドに入り早寝をすれば、翌朝は必ず早く目が覚めます。そうすれば起きてからの時間的余裕も生まれ、家族との挨拶と会話も出来、自然とお腹も空いて朝食が美味しくいただけます。これを続けて習慣にすることが大事で、特に短期間に成長する幼児の頃から始め、一生を通じて良い習慣を身につけさせることが親の務めです。幼児の時に一度身についた良い習慣は「三つ子の魂百まで」と言うように長く実行できるものなのです。
良質のタンパク質を決めるアミノ酸スコアが65と高いお米を主食に、野菜類、豆類、魚介類、海藻類などを組み合わせた食事を朝からバランスよく摂ることが全ての出発点である事を、親の我々はもう一度『食育』を通じて確認したいものです。
参考文献
『子どもは和食で育てなさい』 鈴木雅子 著 株式会社カンゼン 発行
『科学が証明する朝食のすすめ』 香川靖男 著 女子栄養大学出版部 発行
『平成18年版食育白書』 内閣府編集 社団法人時事画報社 発行